射法八節




1.足踏み


正しく射を行うには、正しい姿勢に保つ必要がある。この姿勢の基礎が正しい足踏みにある。

《順序》

1)脇正面に向かって自然体で立ち、矢筋を通して顔向けをする。
2)左足先を的に向かって半歩踏み出す。
3)右足を一度左足に引きつけ、
4)一足で扇形に踏み開く。
5)ゆっくりと矢筋を通して顔向けを戻す。


(このとき息を吸って、吐く)
(息を吸いつつ・・・)
(息を吐いて)
(息を吸って)
(息を吐いて)

※【矢筋を通す】 筈から矢、矢尻、的まで続く線上を見通すこと。






2.胴造り

胴造りと足踏みは分離した2つの動作ではない。
正しい足踏みの上に不動の姿勢をつくるのが胴造りである。
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1) 三重十文字
両足底-腰-両肩が上方から見たとき一枚に重なり、背筋・首筋を伸ばして下半身を安定させる。

◎縦線……首筋を伸ばし、体を上下に引き伸ばす気持ちで。

首筋・頭の中心線が天に伸びる感じ

◎横線……全て平行で、縦線と直角になる。

a) 左右の肩を結んだ線

b) 左右の腰を結んだ線

c) 左右の足を結んだ線

2)重心の位置  :土踏まず


A
×

B

C
×



AとCを試して、その中間としてのBを採ってみよう。

3)その他

◇正しい胴造りの為には、殿筋を締めるようにし、大腿筋と背筋を中心に
考え、全身をゆったり構える。
◇このとき、本弭を左の膝の上におき、腕はやや円相を描くようにする。
◇心気を整え丹田に納める。

★すなわち

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「伏さず、反らず、懸(かか)らず、退かず、直なることを良しとする。」



◎ 胴造りは、植物が地面に根を張った状態に例えられる。しっかり張った根の上に柔剛適度に上体を生かし、木を繁茂する事を考えながら……。
射技を行う間、胴造りは決して忘れてはならない。





3.弓構え

矢をつがえ、射の運行に移る準備動作である。
(はじめにつくった胴造りを崩さぬように注意する。)
弓構えには、次の3つの動作がある。


1) 取懸け……勝手の動作
◇ 弓・矢を動かさない。(すでに矢はつがえている。)

《方法》
肘を立て、腕を軽く伸ばして取懸ける。
  • 親指を弦に直角にあて、手首は曲げない。

  • 親指を弓懸けの中で軽くそらし、矢の方向へ向くようにし、それに中指をからませる。(離れまで、常にこの状態は保つこと。)

  • 手首(手先には力を入れず、前腕から手先まで全体)をひねる。


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弓懸けの親指と弦が直角であること

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弓懸けの親指はそらせるぐらい

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2) 手の内……押手の動作

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◇弓・矢を動かさない。
◇取懸けの形は崩さない。

★ 《方法》
虎口を少し巻き込んで、角見を弓に垂直にあて掌根をしっかりつける。
小指はなるべく親指に近づけ、薬指・中指はその間に軽くそえる。虎口は十分開いておくこと。

→手の内とは入れ物で、その中で弓が回るのであり、決して弓を握りしめるのではない。

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◎ なるべく小さくつくる



3) 物見
◇矢筋を通して、息を吸いながら顔向けをする。
◇首の筋と矢の十文字(五重十文字の一つ)が崩れて首が傾くと、ねらいも狂う上に、伸び合いで縦線の伸びが十分にできない。これは引分けのときにも変化しやすいので、物見をしたときの形が残身まで絶対崩れないようにすること。

《方法》
首筋が直になるようにして、鼻筋で的を二つに割り、右の目と的中心の間に一線を引くような気持ちで。あごは浮いたり下がったりしない


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◎ 当然、胴造りは保っている






4.打起し


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★ 《注意点》

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胴造り・弓構えの形が崩れないようにする。

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本弭をすくい上げる気持ちで、両拳はなるべく遠くを経て同じ高さに来る。

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両肩は降ろしたまま。(打起こし終わったら、再度確かめる。)

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弓が伏さないようにする。
→勝手の親指の腹で押し出すように。

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弓が照らないようにする。
→掌根がはずれないように小指をしめ、手の内と弓が常に直角を保つように手首を起こして行く。

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打起しながら息を吸い、打起し終わると同時に吐く。

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顔向けは戻さない。






5.引分け
引き分けの基本は『肘力大三』 或いは『押大目引三分の一』といい、つまり押すことと引くことの平衡を教えている。
引き分けの途中で大三をとるが、これは打起こしから引分けに入るときの受け渡しの役目をし、唯一自分の力で押すことになる。(その他のときは、弓の張力に対し押し返している。) したがって、これはその後の射の善悪を決定してしまう。
大三以降は胸を左右に開くように、体を弓の中に割って入る気持ちが大切。(体を前に傾けたり、胸を張り出したりすることではない!)

1) 大三
左右均等に引くには、押すことが大切な眼目となる。これに対し引く力は約三分の一、だいたい引くべき矢束の二分の一にとどめる。=『押大目引三分の一』

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大三では、外見上動きが停止するが、力の入れ方には途切れがあってはならない。



2)大三以降

あくまで『押大目』:押手を中心に考え、勝手は大三で感じた肘(および上腕の力を感じつつ、)

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押手   → 左足先の方向

勝手の肘→ 右足先の方向 (直線的に)

に左右の上腕を伸張しつつ、体を弓の中に割り込む。
▼ 左右の肘を後ろへ回し肩を後ろ下方に抜いて、体を割り込むのではない。


手の内は弓の力に負けないよう、積極的に角見を先頭にして親指を押し込んでいく。

息は落ち着けて。(息を何度も吸ったり吐いたりしない。)
丹田に下ろす。
▼ 息が胸に残っていると十分胸がひらけないし、胴造りが不安定になる。
∴腹式呼吸をマスターしよう!


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6.会


会は、形の上では引分けの完成した状態であるが、内面は無限の引分けであり、上下左右に伸びあい、発射の機を熟させる過程である。
= 三重十文字

1) 会の形での必要条件 (5つ) a. 頬付け(口割り)が一定。
→ 人により多少差があるが、頬骨から口までの間
b. 胸弦がついている。
→ 弓を十分体に引き付けている。 c. 矢束いっぱいに引いている。
→ 右拳は肩の前上あたりにあるはず d. ねらい(的付け)が正しく付いている。
→ ねらいについて

●第1のねらい…………物見を正しく
(打起し)


●第2のねらい

(大三)

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両肩の線を矢に接触させるように引き込む

第3のねらい

(引分け)

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押し手は左足先の方向に伸ばす

第4のねらい

(会)

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両肩の線を矢に近づける
この時、

[A] (足踏みの線)−(両乳頭の線)−(矢の線)が重なり、的に向いている


[B]両目を開けたまま右目で見た像が、


      半月のねらい 


となるのが、理想である。

なお、

顔向け & 取懸けの位置 & 矢をつがえる位置

が一定であることは言うまでもない。




e.

五重十文字が正しく行われている。
(1)弓と矢
(2)押手の手の内と弓
(3)弓懸けの親指と弦
(4) 胸の中線(背骨の線)と両肩を結ぶ線
(5)首筋と矢

▽会では3秒以上もつこと。
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……

会で以上(および後述)のことを確認していれば、3秒以上は離せないはずである。
一射一射を大切に!

2) 手の内について

  • 左腕の内側の中央の筋を、肩の付け根から手首まで出入りのないようにまっすぐに通す。

  • 上部の筋は肩の付け根から親指の根に

  • 下部の筋はわきの下から小指の先まで

  • 外側の筋は肩甲骨より人差し指まで     まっすぐに通すことが大切である。

3) 勝手について

  • 右肘は右拳よりやや低めで、両肩の線よりやや後ろ。

  • 取懸けで肘から手先まで軽くひねった状態を保つ。

4) 矢束(矢尺)について

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 のど仏より指先の長さ+指4本の幅
または、
右乳より左指先までの長さ
とされているが、矢の長さは引き込むのを防ぐため、これに指3本を加える。

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5) 会での心のあり方
……詰め合い・伸び合い・息合いの充実


《詰め合い》
縦・横十文字を基本として、
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五分の詰めの充実


→右手・左手・左右の肩・胸
〜離れの際に重要な働きをする急所急所を正しく整える

b.

八分の詰めの充実


→五分の詰め+足・腰・腹

c.

五重十文字の充実

 をはかるといわれる。

《伸び合い》
縦横十文字を軸とし、積極的に弓力に負けないよう伸張する。
気が技に優先し、これが技を誘発するのである。

《息合いの充実》
息は丹田におろし、決して息を止めるのではないが、腹式呼吸で吸うか吐くかのいずれかの状態である。

▽最も重要なのは、縦線をしっかり取り、左右に伸びあうことである。
息は丹田におろし、しっかり胴造りができていること。


★ 正しいと思われる手の内
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(付)

 ○ 矢を番える位置

 矢を番える位置は矢どころの上下、矢飛びの早さなどに大きく影響しますから、正しい決め方を知っておかねばなりません。
矢を番えてみて矢の下の線が、握り皮と矢摺籐の境に接する位置に合わせて、弓と矢の角度、弦と矢の角度がほぼ等しくなる場所が正しい位置です。
これとともに、左手の握りの位置も正確に決めておくことがたいせつです。矢を引き込んだときに矢の位置が握り皮の上、矢摺籐の下端にくるようにするために、手の内をきめる際には、握り皮上端から1?くらい下で握ります。こうしておけば弓を引き込むにしたがい、親指根が多少押されて高くなり、会では矢がちょうど矢摺籐の下端にきます。
この関係が崩れて矢を番える位置が高すぎると、矢が下に行きます。また低すぎると矢が上にいき、または上下に波を打って飛びます。このときには発射の際、親指の根を矢がすってゆくため、ここにすり傷ができることがあります。







7.離れ


体の中筋から左右に開くように伸張し、気合いの発動とともに矢が離れていくものである。

左手先と右ひじの力の方向(上:上から見た場合 下:後ろから見た場合)



★ 離れに際して必要な働きとしては、
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1)押し手の角見の働き

2)勝手の肘の働き

3)両肩を開きながら状態を弓の中に割り込む働き

がある。

★ 1) 押し手の角見の働き

小指をしっかり締めた状態で上押しをかけ、親指の根で弓の内竹の右側を強く押し出す。(ちょうど親指が中指をこすって前へでる形になる。)

>◇

なぜ角見を効かすことが重要か?

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・弓をひねらないと…
→前矢がでてしまう。また、頬や耳を打つ。

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・角見を効かせて弓をひねったとき…


→弦から筈が離れるときも、矢は的を向いている
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この角見の働きが日本の弓の技術の特徴で、最も難しいところであると言われている。

2) 勝手の肘の働き

 右肘が会で伸びる方向及び離れで動く方向は、やや後ろ下に向かって突くように。(引分けのときはほぼ矢筋方向)
→参照
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右手先に力が入ると手先離れになり、離れが狂いやすく、矢どころが定まらない。したがって、取懸けのときから軽くそらしている親指で、はじくようにする。
また、右手先は、内にひねる力を会の状態のまま持続させておく。

3) 体の割り込み

 両肩を左右に広げる力を使うと同時に、体を弓と弦の間に割って入れる気持ちが必要である。
◇伸び合いの力を助長し、ゆるんで離れることがないように!


※ その他の注意
・決して体を動かさない。
→三重十文字を堅持する。
・目を閉じない。






8.残身(残心)
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残身は射の総決算である。矢が離れたあとも目は矢所を見定め、離れの姿勢を崩さず、気合いのこもったまま十分天地左右に伸びる。
残心によって射の良否が判断できるので、一射一射確認することも大切である

《ポイント》

▽正面
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  • 両拳を結んだ線は、肩線とほぼ同じ高さで水平。

  • 押手拳は、会の位置より一拳後ろで半拳下方。

  • 勝手は八分くらい開く。

▽平面
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  • 両拳は胸の線より前にあってはならない。

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※注意点
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  • 押し手・勝手の親指は、まっすぐ左右に伸びている。

  • 強弱(手首)が折れていないこと。

  • 弓は垂直に立っていること。

 その後、弓倒しをし、顔向けを戻す



行射中特に重要なことは、
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  • 三重十文字をくずさず、

  • 息に合わせて

   引くこと。
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